16)拡張言語行為論による了解の分析−あいづち「はい」による了解の程度と過程

              土井晃一, 大森晃

              言語処理学会論文誌「自然言語処理」掲載予定(Vol.8, No.8, 2001)

 

本研究の出発点は,以下の論文にまで遡る.

              ?(1) 要求獲得法に関する提案

                                          大森晃, 土井晃一

                                          ソフトウェアの要求分析に関するシンポジウム講演・発表要旨集, 35-48, 1993

               (2) 要求獲得法におけるオフライン法の提案

                                          大森晃, 土井晃一

                                          情報処理学会第48回全国大会講演論文集(5), 373-374, 1994

上記論文において我々は,リアルタイムで通常行われる要求獲得の補助的手段として「オフライン法」を提案した.オフライン法は,リアルタイムの要求獲得プロセスを録画・録音した記録データを観察・分析することによって,要求獲得の漏れを出来るだけ回避しようとするものである.その場合,記録データは言語現象の集まりであることから,我々は観察・分析用の枠組みとして,言語学の成果であり,話し手・聞き手の言語行為について論じている言語行為論(発話行為論)に着目した.

 

こうした文脈で,要求獲得のプロセスでは了解という言語現象が重要な位置付けにあり,了解の語用論的分析が欠かせなという立場から,本論文はAustinとSearleによる言語行為論の拡張を行い,拡張言語行為論の枠組みを提案した.その枠組みには以下のような特徴がある.

(a) 新たに二つの概念要素(隠蔽された命題行為と意図)を既存の言語行為論に取り入れている.

(b) 既存の言語行為論における発語媒介行為と発語媒介的効果を,それぞれ,二種類の行為および四種類の効果に分割している.

その結果,拡張言語行為論の枠組みは13の概念要素からなることになった.提案した枠組みに基づいて,了解の代表的表現のひとつである「はい」の意味の多様性を,了解の過程・程度を軸にして語用論的に分析した.分析の結果,了解の程度には8つの段階,了解の過程には7つの段階があることが明らかになった.このように,これまでは了解については詳細な議論がなされていなかったのに対して,本論文によって了解の程度や過程を考察する枠組みを与えることができた.