15)あいづちが発想数に与える影響−その実験と分析

        大森晃, 土井晃一

        認知科学, Vol.7, No.4, 292-302, 2000(全11頁)

 

ソフトウエアを含めた製品・サービス等に対する要求を獲得するために,しばしば会議(以下,要求獲得会議と呼ぶ)が行われる.要求獲得会議は,主として要求提示者(顧客・ユーザ等),および司会者から構成され,例えば「次期情報システムはどうあるべきか?」というような議題を設定して行われる.

 

要求獲得会議での司会者の仕事は,会議の司会を行いながら,要求提示者から要求を獲得することである.要求を獲得するまでの過程は,大雑把に捉えると,できるだけ多くの発想を引き出す(ステップ1),引き出した発想を組み立てて要求を獲得する(ステップ2),という2つのステップからなる.ステップ2を通じて要求を獲得するためには,ステップ1はその前提となり重要な位置付けにある.ステップ1で司会者ができるだけ多くの発想を引き出すためには,要求提示者ができるだけ多くの発想をすることが重要である.

 

要求提示者の発想に影響を与える要因としては,いろいろと考えられる.例えばKJ法やブレーンストーミングなどの手法や,計算機上に構築された発想支援ツールなどの道具である.本論文では,こうした手法や道具にではなく,要求獲得会議における人間の行動に着目した.

 

人間の行動のひとつとして,要求獲得会議では司会者が適度にあいづちを打ちながら会議を進行していくことが,経験的に知られている.司会者のこうした行動は,適度にあいづちを打つことが要求提示者の発想を促すという前提(以下,司会者の前提と呼ぶ)にたって生じているものと想定できる.司会者の前提が正しいとすれば,あいづちは発想に影響を及ぼす重要な要因のひとつになる.

 

本論文では,あいづちと発想数との関係を調べることによって,司会者の前提が正しいかどうか,さらに言えば,あいづちが発想の重要な要因であるかどうか,を判断するための有用な材料を得ることができると考えた.

 

本論文は,あいづちを統制対象とした実験会議を行ない,聞き手側のあいづちが多い場合と少ない場合で,話し手側の発想数がどう変わるかを調べたものであり,「あいづちを入れた方が,発想数はより多くなり,よりきちんとした発想が得られる傾向にある」という知見を得た.このように本論文は,これまで経験則で語られてきたあいづちと発想との関わりを,実験的に確認したものである.