13)品質評価に基づくソフトウェア生産性評価法の検討

        冨士仁, 大森晃, 尾越昌子, 菅野文友

        品質, 27巻, 1号, 114-122, 1997(全9頁)

 

ソフトウェアの生産性指標としては従来,主として規模(ステップ数:LOC(Lines of Code))の工数に対する比(以下,従来指標と呼ぶ)が用いられてきた.しかし,従来指標に関しては次のような問題点を指摘できる.

 

例えば,同一の仕様に対して,ある一定期間に同一のプログラミング言語を用いて,2人の開発者がそれぞれソフトウェアXとYを開発したという状況を考えよう.仕様が同じであっても,その仕様を満たすソフトウェアは様々な方法で開発することが可能であり,アルゴリズムの違いやプログラムの作り方などに差異はあるが,たまたまソフトウェアXとソフトウェアYの双方が同じステップ数で開発されたとする.しかしながら,ソフトウェアXの品質は極めて良いがソフトウェアYの品質は劣悪であったとしよう.

 

この場合,従来指標による生産性評価ではソフトウェアの物理的な量に依存し,品質の程度には全く依存しないため,質的に極端な差異が生じていたとしても,ソフトウェアXとソフトウェアYの生産性は同じであるという不可解な評価になる.本来はソフトウェアXの方がソフトウェアYよりも生産性が高いと評価されるべきところであるが,こうした不可解な評価になるのは,品質の程度が従来指標による生産性評価に明示的に反映されていないからである.このような不可解な生産性評価を回避するためには,従来指標に対して品質の程度を明示的に反映できるように改善していく必要がある.

 

こうした考え方自体は新しいものではなく,これまでにも「生産性評価において品質を考慮するべきである」と指摘されてきたし,開発工数の状況やドキュメント枚数に関する評価といった,開発中の間接的な品質評価をとり入れた指標も提案されている.しかしながら,ソフトウェア自体の品質を考慮した生産性指標は具体化されるまでには至っていなかった.

 

本論文は,物理的な量だけでなく,ソフトウェア自体の品質を明示的にとり入れた新しい生産性指標を具体的に提案し,その新指標を実際のソフトウェアに対して試用し,その意義について論じたものであり,以下のような結果を得ている.

(a)従来指標に比べると,新指標による生産性評価は低くなる.

(b)複数のソフトウェアを生産性の高い順に並べると,場合によっては,従来指標に

よる順序と新指標による順序が逆転することがある.

(c)従来指標に比べて新指標の方が,開発者の実感に近い.

 

本論文の価値は,これまで望まれてきた「品質を考慮した生産性指標」を新たに具体化し,その指標による生産性評価の方法を具体的に提示し,試用を通じて開発者の実感という観点からその有用性を確認した点にある.